風のすみかへようこそ
NPO文化学習協同ネットワーク編(2005)『風のすみかにようこそ』東京:ふきのとう書房.

本を読みながら、涙ぐむなんてことがこれまでにあっただろうか?
この本に登場するひとの多くを僕は知っていて、具体的な顔やあれこれ考えたり悩んだりしながら働いている姿が思い浮かぶ。「ウンウン、そうかそうかぁ」とひとりで頷きながら、一気に読んでしまった。心が躍り、涙腺が緩んだ。
働きたくても今の過度の効率やスピードを求められる職場では働けないし働きたくもない。もっと、自分のペースで生きることが認められて、やっている仕事も誰かの役に立っているという実感が欲しい。そんな青年たちのための「働きながら学ぶ場」として、地域の人たちが求めるおいしいパンを届ける場として風のすみかはある。

誕生日に贈ってもらったパンたち。モチモチした食感ですごく美味しかった。
パン屋を作り、この本を出した文化学習協同ネットワークとは色々な縁でつながりがある。大学を出た後に『カンパネルラ』という季刊雑誌の作成に関わったり、神奈川や長野での農業体験やパン作りのイベント、様々な学集会などに参加させてもらったり、大学院を出た後には塾部門でバイトをさせてもらったり、と。僕はその場その場にちょこちょこと参加させてもらいながら、それこそ色々なことを学ばせてもらってきた。
勝ち組と負け組みの選別、過度の競争的市場原理などは現在強まる風潮にある。多くの場面で効率、競争、スピードなどが社会を席巻し、それが当然のこととして受け入れられている。僕の中でそういった価値観に違和感を覚え、閉塞感を感じていた時にNPOの代表である佐藤洋作さんが語っていたことが忘れられない。「どうやって弱者も強者も含めていろいろな人が一緒に生きていけるかを考えていきたい。これまでは弱者や奴隷が強者や主人になることが求められていたが、弱者が弱者で生きられる社会、いろいろな人が認められて生きられる社会を作っていきたい」と。僕にとっては大の大人が「一緒に生きる」ということを真剣に語りかけてくることが衝撃だった。飲み会の席でそう伝えると、「共に生きるってことを語るのは、当然のことだろ!」と強く語っていた。
「競争的な市場主義とは別様のオルタナティブな仕組みを創る」と言うのは簡単だが、現実にはナカナカ簡単ではない。けれども、このNPOはネットワークや夢、支え合い、協同と共生の思想などで何とかかんとか仕組みを作り上げてきてしまう。その実行力には相変わらず感心させられる。
もちろん全てが順風満帆というわけではない。紆余曲折、悩み、トラブルはたくさんあったようで、本の中でも紹介されている。あてにしていた職人さんが辞退したとか、スタッフ自身が「もう辞めたい」と何ども思ったとか。単なるサクセスストーリーの書いてあるパン屋の成功美談ではなく、トラブルや悩みも含めて表現されているところが本の作り手の性格を映し出している。
僕自身も転職を控え、新しいことへのチャレンジが待っている。オルタナティブな仕組みを創り出すことにも関わっていく。そんなタイミングで読んだので余計に良いエネルギーをこの本からたくさん受け取った。
本もパンもホンモノだ。
たくさんの人に味わってもらいたい。
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本はふきのとう書房からも注文できる
評者:後藤 彰

