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音 sound rythm music アーカイブ

2005年09月11日

大地の音 part1 (2002/Aug)

マクーというイラン—トルコ国境の街がある。
夜行バスで長距離移動し、ヘトヘトになって着いた。

街をぶらついていると、前から変な杖の様なものを持った人が歩いてくる。
会釈をされたので返すと、日本人だった。まつ毛が一部白くなっているのが特徴的だった。
「何だぁ、この人はヒマラヤでも登ってそうだな」というのが第一印象。
倉さんが手に持っている杖のようなものは竹の筒だった。

彼とは一緒にトルコへと国境を越えた。トルコに入って、禁酒圏イランを脱した祝いにビールを飲んだ。あまり、美味いとは思わなかった。

飲みながら話していると、そう言えばあの竹筒は何なんですか?という話になった。
これは、楽器なんですという。
「いやー、酒が入っちゃったからあんまり上手く吹けないと思うけど」と言いながら演奏をしてくれた。

「・・・スゲェ・・・」
それがディジュリドゥーの音との遭遇だった。
何となく知っていた楽器だが、実際に目の前で演奏されると迫力があった。
これはすごいものだと思った。

彼は、シリアに急ぐということでトルコのはじっこで別れた。
「また会うでしょう」なんて言いながら。

シリアで世界で一番キレイなドミトリーがあると言われる宿がある。確かに良い宿だった。
場所はハマという世界一大きな水車がある街だ。木で出来た車軸がこすれる音は素晴らしい。ディジュリドゥーの音に似ている。
その宿でも彼と会った。その時は僕が入った日にすぐ彼が出ていったので、それ程交流はなかった。「また会いましたねぇ」
「僕はダマスカスにしばらくいます。まあ、そこでまた会うでしょう。」なんて言いながら。

その旅を終えるため、僕はダマスカスに着いた。シリア人の大移動とぶつかりバスのチケットが取れず右往左往したが、ダマスカスに行くというパッカーとミニバンをチャーターして何とかたどり着いた。
四日後には東京に向けて24時間のフライトが待っている。
その街の宿でまたしても、倉さんに会った。彼はチェスをしていた。
その宿の部屋はフル。
中庭のソファーでなら寝てよいとのこと。僕は寝袋を持っていなかったが、彼が「僕のを使いなさい」と出してくれた。

彼の持っている楽器は常に気になっていたが、ダマスカスで聴くことはなかった。

早朝、「僕はイエメンを目指します」と言う彼と握手をした。「また、どこかで会いましょう!」 両手を胸の前で合わせ、合掌してさっそうと出て行った彼の姿が印象的だった。


半年後、僕は北インドにいた。さまざまな旅行者と話していて「一番面白い場所はインドだ」という意見が多かったことも影響している。倉さんが勧めていたのもインドだった。

ヒンドゥー教の聖地「バラナシ」でインドに少し疲れていた。
歩いているとどこからともなく人がすり寄ってきてささやく、「マニー、マニー、マニー」「ハーシーシー」「ガンジャガンジャ」「オンナ、カウ?」

ガンガーのほとりで絵はがき売りの子どもに付きまとわれ、「うるせぇ、向こう行けガキャ」とか言いながら歩いていると、視界を見覚えのある白いまつ毛が横切った。
「えっ、あっ、倉さん!」
「アイヤー、来たんですね?また出て来ましたか?まあまあ、座って。チャイでも飲みましょう。」

半年近くかけて、僕はバイトをしつつセメスターを終わらせ、インドにいた。
同じ時間をかけて、彼はイエメンにたどり着き、パキスタンなどを見て回りながらインドに滞在していた。「もう、3ヶ月目に入ります。僕は、このバラナシが好きなんですよね。すごく落ち着くんです。」

彼は、相変わらず竹の筒を持っていた。ガンガーのほとりで朝夕瞑想した後に吹くという。
神秘的な感じがした。それは「大地の音」だった。
さまざまな雑音が飛び交うガート(沐浴場:川のヘリはコンクリートで固めてあり、巨大な階段のようになっている)で、聖なる川ガンガーに向かってディジュリドゥーを吹く彼の姿も、そのうねるような不思議な音も素晴らしかった。

中東で会って、バラナシのガートで再開した。これは、何かの縁だと感じ思い切って聞いてみた。「倉さん、僕もその楽器をやってみたいのですが、教えてくれますか?」
「ん、やりますか?ふふふ、良いですよ、じゃあ竹を買いに行きましょうかね。」
ということで、僕もディジュリドゥーを演奏する人間に加わったのだ。
嬉しくってしょうがなく、暇も手伝い毎日吹いていた。

「バラナシに来たら沐浴しなきゃもったいないですよ。やるなら、朝日の出る前、早朝ですね。」との言葉に乗せられて、僕はネパールに発つその日の早朝にガンガーに入った。
腰まで浸かっている状態から全身を聖水に勢い良くうずめる。あまりの冷たさに体を上げるときに口が開いてしまう。当然水が口の中に入り込む。ガンガーの味がした。
沐浴中、彼はずっとガートの六角の上でディジュリドゥーを演奏していた。

「ガートで出会って、ガートで別れましょう」そう言ってバラナシを出る僕を見送ってくれた。「また会いましょう!」合掌。

僕は倉さんとばったり再会することで、大地の音を奏でる楽器とつながった。
その楽器はさらなる出会いをたくさん奏でていく。

そのうち、どこかでまたばったり会うだろう。

dedje.jpg
インド・ムンバイにて、音で地元民と交流中。

2005年09月12日

大地の音 part2 (2002/Aug)

「へー、何それ、他の音も出るの?」
「音階とかはあるの?」
「ふーん。お、面白いね。 ところでさぁ、、」

3年前に意気揚々と竹製のディジュリドゥーを大学に持っていった時の周囲からの反応はこんなもんだった。一部の民族音楽好きには受けたが、他の人々には全く相手にされなかったと言っても良い。
その時に強烈に思った。「いつか、この楽器で人を感動させてやる」と。

7月の21日と22日に僕は栃木県の益子町にいた。ジャンベという西アフリカ原産のさまざまな音色を出す太鼓を叩く人が集まる祭りがあると知人に誘われたのだ。
半分は、研究のためのフィールドワークのためだった。

ダムを見ながら奥に進むと開けた原っぱになっていて、そこに人が集っている。
福島の獏原人村という自給自足を基本とした集落に住み全国を軽ハコで移動している人や、楽器作りや幼稚園での音楽ワークショップをやっている青年、仕事をしながら土日は練習やジャンベなどを使ったライブをやっている人、食えないミュージシャン、ジャンベ屋さん、農業をやりながらジャンベをこよなく愛する青年、見るからにラスタ・マン、季節労働をしながら音楽イベントを渡り歩く人、陶芸家などさまざまな人が集まっている。
学生は恐らく僕だけだった。

「調査しに来ました」では確実に壁を作ってしまう。恐らく友人にもなれないだろう。どのようにコミュニケーションを取るのか、それが問題だった。僕はジャンベを叩けるわけでもない。だが、ディジュリドゥーがあった。

到着してまもなく、中央の広場には皆が集まってジャンベセッションをしている。さすがに、それに入り込む余地はないと思っていた。
そのセッションが終わったあたりで、僕はおもむろにディジュリドゥーをもって移動した。
以前会ったことのある、鉄楽器職人のてっちゃんがジャンベを湿気から守るためにしまおうとしていた。
「てっちゃん、ジャンベしまっちゃうの?ちょっと遊ぼうよ。」
「おお、良いよやろうやろう。」

ディジュリドゥーをそこに転がっているジャンベの後ろに差し込む。音の反響が倍増して、マイクなしでもかなり良い音が響くようになるのだ。

てっちゃんは一定のリズムをジャンベで刻んでくれる。僕はそれに合わせてディジュリドゥーを吹きまくる、吼えまくる、ビートを刻みまくる。
途中から人が集まりだし、「おお、すげぇ」と呟いている。ジャンベで参加する人も出てくる。
視線が痛いので目を閉じて、周囲のささやきが非常に気になりながらも演奏を続行する。10分ぐらい吹きまくり、吼えまくり、刻みまくったところで、てっちゃんのジャンベがスローペースになりジャムセッションは終了。

「ウォーオオ」と拍手と声が方々から上がった。「スゲェ、どのぐらいやってるんですか?」「いやー、良いですねぇ」といろいろな人が言ってくれる。

「いやいや、ほんの3年ぐらいしかやっていないし、大して上手い方ではないですよ」と正直に言うが、

「いやいや、関係ないよ。僕は人の演奏とか滅多に褒めんけど、今のは気持ち良かった。なかなかグッドだ。」
「今何してんの?ディジュでライブとかやってるの?」
「それで食ってけるとちゃうん?」
「いやー、君のディジュリドゥーは最高だ。」
「感動した。」
「途中まで車を取りに下りていったら、良い音がするからまた上がってきちゃったよ。」
「今度一緒になんかやろうよ。」
なんてことを言ってもらった。
一番驚いたのは自分だった。

芸は身を助けるというが、その後のジャンベ陣との交流はかなりスムーズにいった。ディジュリドゥーを吹く人間として認識されているからだ。
ただ、あまり時間がなかったのと、大抵の時間をジャンベ演奏に没頭している人たちと多くを語ることは難しかった。僕自身も途中から「調査」といったことを忘れはじめていたこともある。

技術的に上手い下手ということが分かりにくく、その人の吹き方とかフィーリングといったものが直に出る楽器だ。音階や楽譜が分からなくても全く問題はない。
演奏をする場所や雰囲気といったものも大きく関係してくる。ダダッ広い原っぱで吹くと地面を伝わって少し離れたところまで音が届く。大地と共鳴する。

人を感動させるという当面の目標は達成された。次はどんな目標を作ろうか?
倉さんとの出会いから3年以上たった。今、こんなことになってます。

dedjejoint.jpg
↑最近は、ジョイント式のディジュリドゥーが仲間入り。nomad life にも対応中。

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