婆ちゃんのだんご汁定食

後藤 彰
27/Mar/05 up date

「このへんでどこかお昼を食べる良い場所ありますかねぇ?」
  僕は市町村に入ると出会った人にこう聞いてみる。
  毎日昼ごはんを外食で済ませることになるので、「何をどこで食べるか」には気を使うのだ。「あそこにホカ弁があるよ。あ、あっちにコンビニもあるね」と直売所の母ちゃん。「あんまり、外で食べないからなぁ。量ならあっこのうどん屋が安くてたくさん食えるぞ?味、そりゃ、大した事ねぇけどな」と農家の父ちゃん。本当に時々だが「この辺でねぇ。うちが一番美味いぞ。食ってくか?」とゴチソウになることも。が、大抵は外で食べる。「こんなモノ金取って出すなよ」と心底思ってしまう場所もあれば、離れていてもバイクを飛ばして通いつける場所もある。通う場所は大抵が紹介してもらったところだ。そうこうして、70%ぐらいの確率で僕は気に入った昼飯場所を探し出す。そして、可能な限りそこに駆けつける。時には地産地消レストランやカフェ、農家レストラン、地元食材を使った道の駅レストラン、おばちゃんが親切な大衆食堂などなど。
  山川町では「この辺には食べるところはねぇぞ」と言われていたが3日目にしてようやく発見した。「ついの杜/SEIGO」。バイクで走っていてこの看板は眼にしていた。「何だこれ?」ぐらいの感覚であまり気にとめなかった。石釜焼きパンを創っている「田舎茶屋」という創作雑貨屋でお昼場所を聞き込んだら「だんご汁定食が食べられるところがあるわよ。まだ定食があるか電話で聞いてあげるから」とワザワザ電話をしてくれ「今から赤いジャンパー着た若い兄ちゃんが行くからね」と予約をしてくれた。地方では多々こういった親切に出会う。

<ついの杜 SEIGO>
この看板から何を想像しますか?
そこは古民家を改装したイベントスペース兼茶房になっている。
 
   「ついの杜/SEIGO」はフラワーアレンジメントや展示スペース、イベント事をメインに運営している場所だ。2004年にオープンしたばかり。一角にあるSEIGOは夜間に焼酎バーと化す。一見、定食など出てきそうにないのだが、1日15食ほど限定で「だんご汁定食」を出している。メニューも何もない。定食のみ700円orデザート付き1000円かを口頭で聞かれる。非常にバランスの取れた定食。家庭料理がそのまま出てきている感じだ。だんご汁が身体と心を温めてくれる。お米もとびきり美味しい。聞けば「寿司屋と契約している親戚の美味しいお米を分けてもらっている」のだとか。
  「野菜などの食材にも気を使っているのか?」と訪ねると「近所の農家から仕入れる野菜をウチのお婆ちゃんが料理するんです。昔っから作っていた野菜中心の料理ですよ。定食を作ることはお婆ちゃんの生きがいにもなるんです」と。
だんご汁定食(700円)。
ご飯、だんご汁、煮しめ、
和え物、漬物、小鉢。お茶。
そして、眼下に広がる水田風景。
ホンモノは美味い。
  僕は美味しい料理を食べながら、もっとたくさんの人がこの場所を知ったら良いのにと単純に思った。それには、道に出ている看板がもっと情報を発しなければいけないとも。「あの素敵な看板、もうちょっと工夫して『だんご汁定食あります』とか『スローフードやっています』とか書いり貼ったりしたら良いんじゃないですかね。そしたら、もっと人が来ると思いますけど。少なくとも僕は見た瞬間に入ろうと思いますよ」と提案してみる。村や地域に新しい動きが起きるには「ヨソ者、若者、バカモノ」が必要だと言われている。折角全国を歩き回るんだから、全て兼ね備えている僕が何かのきっかけになったら素敵だと思う。だから、去っていくにもかかわらず、無責任にもいろいろ焚き付けてみることにしている。
  でも、今回の提案は的外れだったことがすぐに分かった。「お婆ちゃんが作れるペースで作れる量だけ出してもらっているから1日15食ぐらいなんですよ。それ以上になると愉しんでやれなくなっていきますからね。料理を創るのが大変になっていったら質も落ちますしね。15食、毎日大抵は完売しますね。余ればまかないとして私たちがいただきます。それに定食で採算を取ろうとは思っていないんです。メインはフラワーアレンジメントなどですから。遊びの部分を大切にしているとでも言いましょうかね」。
  なるほど、婆ちゃんのだんご汁定食はスローそのものだ。「よりもっと」という論理とは相容れない。反省。こういった良いものは口コミで確実に広がっていくのだろうなぁ。山川町に行ったら、是非「婆ちゃんのだんご汁定食」で温まって欲しい。
「次はご飯が炊きたての11時頃に来て下さいね。きっともっと美味しく食べてもらえると思いますよ」と14時ごろ訪ねた僕に声を掛けてくれる。僕は結局このお店に4回通った。
  「文化の豊かさ」を思うとき「通ってでも食べに行こうと思えるカフェやレストラン、食堂がその地域にあるかどうか」が一つの指標になる。少なくとも僕にとっては。



beart link: 筆甫地区「ドン詰まりは最先端」(農家レストラン)


山と川の町 ミカンと哲学者 婆ちゃんのだんご汁定食


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