中村隆市+辻信一 (2004)『スロービジネス』ゆっくり堂

評者: 後藤 彰
10/Jan/05 Update

「広大な宇宙のなかの奇跡の星に人は生まれ、そして誰もが死んでいきます。はかない存在であるからこそ人は幸せを求めて生きるのだと思います。そして人は、何かの役に立つことを求めています。誰かの役にたっていることに歓びを感じます。
 だから、私は、スロービジネスが成り立つことを信じています。」(中村隆市p.206)
ゆっくり堂というスローなヨロズ屋
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 僕はちょっとした縁から、中村さんも辻さんも知っている。その二人の対談集。
  この二人、時々、「バカモノだなぁ」と僕は思ってしまう。もちろん、目一杯の親しみと敬愛の念を込めながら。しみじみと、そう思ってしまう。馬を鹿と言って平然としているような人たちなのだ。
 中村さんはいつも、寒いギャグや駄洒落を忍ばせている。まじめな会議の時にでも待っていましたとばかりに子どもみたいに目をキラキラさせながらギャグを披露してくれる。「割り箸を使わずに、My箸を使う。それは、地球の架け箸運動!それに、2膳持ち歩けば、一緒に食べる人にも貸せるでしょ。そうなれば、愛の架け箸運動やね!」。そして、箸を5膳ぐらい持ち歩いている。ゴソゴソとカバンから箸を出す姿は可愛さすら漂う。どうやら最近は3段スライド式ギャグに凝っているとかで「スローカルチャー村(ヴィレッジ)」を連発している。スロー、ローカル、カルチャーが一体になっているとか。そう言えば、ピースローソクなんてのもあった。残念ながら本書の中では編集者がかなり割愛したとか。
 一方、辻さんとの出会いで衝撃的だったのはある講演会でのこと。大の大人が水筒を振りかざして「僕は街角で寒空の下、自動販売機がウンウン唸りながら誰かを待っている光景が美意識として許せないんです!」と訴えていた。彼にとっては水筒を持つことが自販機のボイコット運動になっていると。別の機会にNUUというアーティストと対談をしていた時には彼女が持参していたペットボトルをまじまじと見つめてから「そんなモノ(石油製品)を使って。。。これ、あげます!」って自分のコーヒー入り水筒(飲みかけ)をあげていた。大の大人が。。。
 そんな姿を見ていると、僕は「バカモノだなぁ」と心踊り笑ってしまう。
 今の時代、こういうバカモノが必要なんだと思う。あるいは、バカモノ的視点。
 不況だ、競争だ、勝ち組か負け組みか、自己責任、と何だかギスギスした空気が漂う今の社会。人と人とのつながりや、助け合い、相互扶助なんかの安全網(セイフティーネット)は寸断され、個人は責任を持って自立して生きろというメッセージが溢れかえっている。生き残るためには、人を蹴落としたり、人よりも抜きん出ることが求められる。僕らは、そういった雰囲気と現実的なプレッシャーの中に生きている。その空気の中で、時に人々は萎縮して自分の持っている個性や意見を押しつぶし「食っていくためには仕方がない」とか「現実は厳しい」とつぶやく。確かに、それも「現実」。馬を鹿と言ってみたり、一歩踏み外して脱線してみたり、そんなことがなかなか許容されない。そんな中で、生き方や働き方、いのちのあり方が画一化され、息苦しくつまらなくなってやしないだろうか?
 でも、内心は多くの人が馬を鹿と言ってみたかったり、脱線して自由に生きたりしたいと思っているはず。そして、実際に身軽に自由に多様な生き方や働き方をやってしまっているバカモノが結構世の中にいるものだ。もちろん、語り合っている二人も。対談の中で引用されるスロービジネス家の多くも。「えっ、そんなんで良いんですか?」「ヴェ、それもありなんですか?」という視点、<一般的に・常識的に・ビジネス通念的に>考えればバッカみたいと思われてしまいそうなことが対談で交換されている。
 例えば、中村さんはエクアドルのエコツアーに参加した時に鉱山開発への代替案として森の中で有機コーヒーを育てている生産者に出会い感銘を受けたという。そして、その場で「とにかくできたコーヒーは全部買います」と約束をしてしまう。突飛な約束にも思えるが実は深い経験と洞察から来ている約束なのだ。「判断をする時に一番大事なのは、人です。どういう人とやるかという事が大事で、今現在の状況が、仮に自分のイメージとマッチしていなくても、信頼できる人とだったら何とかやっていけるという経験があるんです」(p113-114)。
 この二人の対談を追っていくと、現在の社会を覆うギスギスした雰囲気の中で<一般的に>考えることがナンセンスで、どんどん脱線したり馬を鹿と言ったりして良いのだと。もっと自由奔放に生きても「やっていけるのだ」とあまり確信はないが思えてしまう。そして、「やっていく」ためのスロービジネスのアイディアもちりばめられているところが面白い。そして、「やってきた」中村さんのライフヒストリーも語られている。スロービジネスとは単に経済だけの話ではなくて、僕ら一人ひとりの生き方のこと、いのちの在り方のことでもあるのだ。
中村さんがスロービジネスとして輸入しているフェアトレードコーヒーでも飲みながらいかがでしょうか?

 
辻さん(左)と中村さん(右)
この写真だと主役は辻さんに見えますが、
本書の主役はデンと座ってらっしゃる中村さんです。

beart link
○ 辻信一ほか 『ピースローソク』 ゆっくり堂 (書評)
○ 辻信一『スロー快楽主義宣言!』集英社(書評)
○ 内橋克人『もうひとつの日本は可能だ』光文社(書評)
○ フランク・パブロフ『茶色の朝』大月書店(書評)

スロービジネスのHP


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